メニエール病は、主に30〜50代の働き盛りの世代に多く、特に女性にやや多くみられます。発作的に現れる回転性のめまいと、それに伴う耳の症状(耳鳴り、難聴、耳閉感)が特徴です。症状の程度や頻度には個人差があり、発作を繰り返すことで精神的なストレスや生活の質(QOL)にも大きな影響を与えます。
病院では薬物療法(抗めまい薬、利尿剤、ステロイドなど)や生活指導が中心となりますが、薬ではなかなかコントロールが難しいケースや、再発を繰り返す方も少なくありません。そんな中、近年注目されているのが鍼灸による東洋医学的アプローチです。
東洋医学から見るメニエール病
東洋医学では、メニエール病に見られる「めまい」「耳鳴り」「耳閉感」「吐き気」などの症状は、体のバランスの乱れによって生じるものと捉えます。
とくに関係が深いのは「肝(かん)」「腎(じん)」「脾(ひ)」の働きです。
■ 肝の不調:気の滞りとストレス
東洋医学でいう「肝」は、気(エネルギー)の巡りを調整し、自律神経と深く関わっています。ストレスや情緒の乱れ、怒りなどの感情が肝の働きを乱し、気が上に昇って「めまい」や「耳鳴り」を引き起こすと考えられます。これを「肝気上逆(かんきじょうぎゃく)」と言います。
■ 腎の虚(じんきょ):加齢や疲労、内側からの弱り
「腎」は、耳や骨、脳、髄などとつながりがあるとされ、加齢や慢性疲労などで腎のエネルギーが不足すると、耳の症状や平衡感覚の失調が起こりやすくなります。これが「腎虚(じんきょ)」の状態です。
■ 脾の弱り:水分代謝の乱れと内耳の浮腫
「脾」は水分代謝を担う臓腑であり、この働きが弱ると体に余分な水分=「湿(しつ)」が溜まりやすくなります。メニエール病は内耳にリンパ液がたまって圧がかかることで発症するという説もあり、東洋医学でも「痰湿(たんしつ)」という概念で、耳の内側にたまった“余分な水”が原因と考えます。
鍼灸でできること
鍼灸では、これらのバランスの乱れを整えることを目的に施術を行います。全身の気血水の流れを改善し、自律神経や内耳の循環を整えることで、発作の頻度や症状の程度を軽減させていきます。
代表的なツボ
・風池(ふうち):後頭部にあり、頭部の血流やめまい、耳鳴りを緩和
・太渓(たいけい):腎を補う重要なツボ。耳の不調やホルモンバランスの安定に
・肝兪(かんゆ)・脾兪(ひゆ)・腎兪(じんゆ):背中のツボで、五臓の調整に用いる
・内関(ないかん):吐き気や不安感、自律神経のバランスに作用
・百会(ひゃくえ):頭頂部にあり、精神安定やめまい全般に効果
これらのツボを、体調や体質に合わせて適宜選び、鍼やお灸で刺激していきます。1回の施術で大きな効果が出る方もいれば、数回の施術を通じて徐々に改善を感じる方もいます。
鍼灸治療のメリット
・薬に頼らない自然なケア
鍼灸は副作用の少ない治療法で、体の本来のバランスを回復させるのが目的です。薬が効きにくい方や、副作用が気になる方にもおすすめです。
・自律神経の調整
自律神経の不調は、めまいや耳の症状を悪化させる要因のひとつ。鍼灸は交感神経と副交感神経のバランスを整えるのに効果的です。
・ストレスの軽減
ストレスが発作の引き金になる場合も多いため、心身の緊張をやわらげる鍼灸の施術は、症状の予防にもつながります。
まとめ:ゆらぐ身体に、やさしく整えるケアを
メニエール病は「完治が難しい病気」とも言われますが、だからこそ、症状のコントロールと体質改善が重要になります。東洋医学は“病を治す”のではなく“身体を整える”ことに重きを置きます。
鍼灸治療は、病気の根本に働きかけ、心と身体のバランスを丁寧に整えていくアプローチです。薬に頼るだけでは解決できない体の声に耳を傾けるための選択肢として、ぜひ鍼灸を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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